Ontario Style Special Contents Vol.2 トラベル・ライターヨシザワのオンタリオ取材ウラ話 Vol.1

オンタリオに20年以上通い続けるトラベル・ライターのヨシザワです。
広大な原野をドライブし、ふと目にとまった風景や小さな街に立ち寄ってみる、そんな気ままな旅が気に入っています。行き当たりばったりに動いても、新鮮な出会いや驚きがあるのがオンタリオ州の魅力です。ここではそうした思いがけない発見や出会いを中心に、取材ウラ話をご紹介します。

アルゴンキンの伝説的アーティスト トム・トムソンと「再会」

ハンサムでワイルドな・・・

はじめてトム・トムソンと出会ったのは、10年以上も前、アルゴンキン州立公園の中にあった「アルゴンキン・ギャラリー」(現在のアルゴンキン・アート・センター)でのこと。会ったといっても、それはモノクロの写真。横分けにした前髪を斜めにたらし、パイプをくわえてまっすぐにこちらを見つめるその表情には、端正な中にも孤独感とワイルドさがひそみ、まさに私好み。100年も前に活躍したアーティストに、目が釘付けになってしまったのです。

彼の作品は、カナダ各地の美術館で何度か見たことがあるし、存在は知っていましたが、こんなにハンサムだったとは。 以来アルゴンキンに行くたびに、その顔が見たくて同じギャラリーをのぞいてみるのですが、どうやら私が見たのは期間限定の企画展のための特別出品だったようで、例の写真にはそれ以降一度もお目にかかれていません。そもそも、アーティストの作品ではなく顔写真を見にギャラリーに行くというのも、不純な行動という他ありませんが。

作品集などでよく見かけるトム・トムソンの写真。最初に見たのはもっとワイルドな雰囲気のものでした。あの写真はいまどこに・・・
(Photo:Archives of Ontario)

アルゴンキン・ギャラリーは最近アルゴンキン・アート・センターとして再開。トムソンの写真はもうありませんが、作品のポスターなどは購入できます

カナダを大胆に描いた孤高の芸術家

トム・トムソンは、20世紀の前半に活躍した伝説的なアーティストです。トロント郊外で生まれ育った彼は周辺の自然をこよなく愛し、とくにアルゴンキン州立公園を好んで描いていました。その手法は独特で、フィッシングやカヌーをしながら、手つかずの原野に踏み込み、目の前に広がる大自然をスケッチし、それをキャンバスに大胆に描くというもの。まさにアウトドア・アーティストといったところでしょうか。
強烈な色彩と激しいタッチで描き出された作品には、紛れもなくカナダの力強い自然が表現されており、それまで北米でも主流だったヨーロッパ的なアートとは全く異なるものでした。魂をぶつけるかのように情熱的に描かれた一枚一枚は、彼の冒険的な日々をそのまま映し出し、見る人々に荒々しくも新鮮な感動を与えたのです。その作風は多くの若手アーティストに多大な影響を与え、彼と親交のあった7名による芸術家集団「グループ・オブ・セブン」の誕生へと繋がっていきます。カナディアン・アートのエポックメーカーとして知られるグループ・オブ・セブンですが、本来ならトムソンもメンバーの中心的存在として参加するはずでした。ところが、グループ結成直前の1917年、トムソンはアルゴンキンのカヌー・レイクという湖で溺死してしまいます。39歳でした。カヌー中の事故とされましたが、その日の湖は大変穏やかだったことや、トムソンがカヌーの達人だったことなどから、単なる事故とは信じられず殺人説などの噂まで流れました。若くしての謎の死、そんな事実が皮肉にも、トムソンをグループ・オブ・セブン以上の伝説の芸術家にしてしまったのかもしれません。

トム・トムソン作「アルゴンキンの秋」
マクマイケル美術館所蔵

トム・トムソン作「ティー・レイク・ダム」
マクマイケル美術館所蔵

トムソンが謎の死を遂げたカヌー・レイクには記念碑も建てられています (Photo:Ontario Tourism)

トムソンの頭像を発見

先日、再びアルゴンキン州立公園を訪れる機会がありました。お約束のようにアート・ギャラリーにも立ち寄りましたが、やはり例の写真はなし。ところが、その後にフラリと訪れた州立公園のビジター・センターで、なんと憧れのトムソンと再会したのです。それは、アルゴンキンの動物や自然、歴史などが展示されている回廊式のギャラリーの最後のコーナー。カヌーをするトムソンを描いた絵画と一緒に赤銅色の頭像が飾られ、アルゴンキンとトムソンのつながりについて説明されていました。
久々に再会したトムソンは、ちょっと老けた様子(そんなバカな!)でしたが、相変わらずハンサムなまま。私としては、やはり最初に見たモノクロ写真の方がお気に入りですが、頭像の彼もなかなかステキではあります。この展示は常設のようですので、いつでも見られます。皆さんもアルゴンキンを訪れたら是非、このビジター・センターによってハンサムなトムソンに会ってみては。
ちなみに彼の作品は、オタワの国立美術館、トロントのオンタリオ美術館、それからトロント郊外にあるマクマイケル美術館などでたっぷり見られます。あ、普通はこちらの情報のほうが大切ですよね。

アルゴンキン州立公園のビジター・センターに展示されていたトムソンの頭像

頭像のそばにかけられていた絵画。このトムソンもイメージとはちょっと違うんですが・・・

アルゴンキン州立公園についてもっと詳しく