Ontario Style Special Contents Vol.19 ナチュラリスト 佐久間克宏のアルゴンキン州立公園の歴史から感じる、自然の再生能力

日本では「紅葉の名所」として人気の高いアルゴンキン州立公園は、オンタリオ州内に330ケ所ある州立公園の中でも最も人気が高く、一年を通して家族連れキャンパーや、カヌーイスト、ハイカー達で賑わっています。その理由は、メープル(サトウカウエデ)などの広大な森林が広がり、ムース(ヘラジカ)やビーバーなどの野生動物と遭遇するチャンスが多い事。国道沿いにはハイキングコースやキャンプ場、ビジターセンターなどの施設が整い、「パークナチュラリスト」と呼ばれる自然解説レンジャーによるガイドウォークなどに気軽に参加出来る事。そして2000近くの湖沼群にはカヌールートが張り巡らされ、カヌーツアーのメッカでもある事などです。また大都市トロントやオタワから、車で僅か3〜4時間とアクセスが良い事も人気の理由となっています。日本ではまだまだ知られていない公園の歴史背景と、公園で一番人気の高いアクティビティーであるカヌーツアーに関して2回に渡ってご紹介します。

佐久間克宏(サクマカツヒロ)

98年秋、カヌーやアウトドア用品の輸入商社を辞め家族と共にオンタリオ州へ移住。翌年よりアルゴンキン州立公園でカヌーやハイキングのガイドを始める。97年よりアルゴンキン州立公園のパークナチュラリストに採用され、ガイドウォークやビジターセンターで公園の歴史や自然を、日本のビジターに解説している。
幼少から日本で培った知識と経験を基にした、分かり易い自然解説には定評がある。オンタリオ州の他、BC州やユーコン準州でも自然をテーマにしたネイチャーツアーのガイドも行い、カナダの自然を日本に紹介している。

自然破壊の教訓から生まれたカナダ最古の州立公園

アルゴンキン州立公園を初めて訪れる人たちは、広大なメープルやホワイトパインと呼ぶ松の森を見て「手付かずの原始林」と思いがちですが、実は公園に制定された年には、ほとんどの大木は伐採や山火事により消滅していたのです。1800年代初頭、パイオニアと呼ぶ開拓者や毛皮商人から、この地に鬱蒼とした森が広がっている事を聞いたイギリスは、大勢のきこり達を送り込んだのです。この地に広がるホワイトパインの原始林を見たきこり達は、「無限の森林資源を得た」と大喜びしたのです。ところがそれもつかの間、たった70年ほどの間にほとんどの大木を伐採しつくしてしまったのです。人間の消費活動は、自分達が想像していた以上だったのです。当時、絵画を通して公園の素晴らしさを世界に伝えたトム・トムソンの絵画でも、そんな荒れ果てた森が描かれています。
カナダは材木など天然資源が重要な収入源でしたので、これを保護して行かなければ国力の低下を招くと恐れた州議会は、「森林の保護と水源の確保、野生動物の保護」を目的にアルゴンキンを1893年カナダで最初の州立公園に指定したのです。州立公園となった後も、森林の伐採や狩猟は管理の元に続けられ、1895年には材木運搬用の列車が開通し20分に一本の頻度で運行されていました。1900年代になると列車を使って多くの人々が、この地にキャンプや釣り、保養地として訪れるようになりました。こうした人々の住居や宿泊先として、公園内には州政府からリースを受けたコテージが建ち並び始め、ロッジ、ホテルも建設されました。列車の駅や製材所を中心に、公園内に集落が出来て行ったのです。1936年、不況対策として進められた国道60号が完成すると、さらに多くの人々が公園に押し寄せて来たのです。

ホワイトパインの原始林ときこり。高さ40m以上あった大木も、実際に使ったのは真っ直ぐで枝の無い下から20mの所まででした。切り落とした枝や残りの木は焚き火にされたのです。1900年代初頭にはこうした原始林は姿を消してしまいました。

伐採でホワイトパインの森は消滅し、きこり達の焚き火が原因で山火事が起こり広大な森が焼け野原と化してしまいました。

「多目的用途の公園」として成功している世界でも稀な州立公園

国道が開通し、より多くの人々が公園の自然を楽しむようになると、森林伐採に反論する意見が増えて行きました。70年代初頭になると「自然保護派」と「林業推進派」の対立が激化した為、州政府は両者が受け入れられる公園の利用策を検討しはじめました。林業の経済的効果、歴史的、生物学的価値などのリサーチが行われ、公園利用の「マスタープラン」が1974年に提出されました。この「マスタープラン」でも林業は継承され、自然環境を損なう事無く林業とレクリエーション活動が進められ、誰もが公園を有効に使える「多目的の公園」としての位置付けが明確となったのです。コテージ用などの土地リースも中止し、自然に戻す政策に転換しています。古く使わなくなったコテージやホテルは取り壊され、今は完全な森に還っています。国道の開通と共にその役目を終えた列車も廃線となり、軌道は全て取り外され現在はハイキングコースに変わっています。
この様にアルゴンキンの自然保護は、自然破壊の歴史があったからこそ、「自然を保護しながら、多目的に有効に利用し経済効果も持続させる」という発想が生まれた世界でも稀な州立公園なのです。

1897年、林業で巨額の富を得たJRブース氏が公園内に鉄道を開通させ、アルゴンキンパーク駅が出来ると、キャッシュレイクに公園本部(列車左奥の建物)が置かれ、ホテル(駅の右上)がオープンし1950年代まで公園の中心地として賑わいました。

アルゴンキンパーク駅があった場所の現在の様子です、上の写真と見比べて下さい。60年後の現在、周辺は松林にすっかり変遷しています。左にある軌道は、2008年公園の歴史保存事業として展示の為に再現した物です。

ホワイトパインの森が姿を消した後、二次森として再生したのはメープルの森でした。特に公園西部の約8割がメープルです。その理由は東部より標高が高い為雨量が多く、土壌もパインよりメープルに適していたためです。ご覧の通り紅葉の時期になると、真っ赤な絨毯を敷き詰めたような紅葉となります。

地球のサステナビリティー(持続可能性)と生命力を感じる公園の自然

「環境の世紀」とも言われている21世紀、地球温暖化が進みこの先私達の「地球」は一体どうなるのだろうと不安は募るばかりです。しかし、アルゴンキン公園の森を歩き、カヌーで旅をしていると一時は絶滅の危機に瀕した動物達と遭遇したり、完全に森に還ったかつてのホテルの跡地などを見る事ができます。こうした光景に出くわす度に、自然の再生能力、生命力の強さに感動すると同時に、地球のサステナビリティーがまだ高い事を知らされます。僕らの意識や消費一辺倒の生活を変えていく事で、まだ地球は元気でいられると勇気付けてくれるのも、自然破壊から再生したこの公園の素晴らしい所ではないかと僕は感じています。

毎年約100万人が利用する、カナダで最も人気の高いアルゴンキン州立公園。面積は東京都の3.5倍又は熊本県に匹敵する広さです。国道を走っていると、野生のムースに遭遇するチャンスが多いのも人気の秘密です。森の伐採によりムースは激減しましたが、森の再生と共に生息数も回復しました。

森に入ると伐採や山火事の跡をいたる所で見受けます。しかし腐った切り株に種が落ち発芽し、大きく育った木を見ると、自然の再生能力に感銘を受けます。私達人間が意識を変える事で、自然は50〜60年で再生できるのです。

パークナチュラリストとして公園内の自然をガイド。日本人グループも増えています

1993年、公園制定100周年に開設されたビジターセンター全景。館内は公園の自然史と歴史がジオラマで分かりやすく展示され博物館のように楽しめます。映画館や展望デッキ、書籍コーナー、カフェテリアも併設。必ず立ち寄りたい場所の一つです。この写真の様に上空から見ないと分かりませんが、建物の形が公園の全土の形になっているのも面白いデザインです。

公園のさらに詳しい歴史や自然に関して知りたい方は、ビジターセンターで販売している「ビジターセンター日本語ガイドブック($1)」をご購入ください。以下の公園のホームページからご注文頂くと、日本への発送も可能です。
http://store.algonquinpark.on.ca/cgi/algonquinpark/00522.html?id=4WpDcfeK&mv_pc=242
また公園に関するお問い合わせは、以下まで日本語でメールをお寄せください。
kcjsakuma@sympatico.ca

[ 次回予告 ] 次回はこの地方を旅するのに最適な乗り物「カナディアン・カヌー」についてお話しします。

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