Ontario Style Special Contents Vol.21 パーク・ナチュラリスト佐久間克宏の カナダの自然と歴史を体感する、アルゴンキン州立公園のインテリアカヌー

毎年100万人が訪れるアルゴンキン州立公園。その自然の中でのアクティビティで最も人気が高いのが、カヌーを使ったキャンプです。ここでのカヌーには、オートキャンプ場をベースにして日帰りで楽しむ方法と、数日間分のキャンプ道具と食料を積み込み、キャンプをしながら公園奥地を巡る「インテリアカヌー」という方法とがあります。今回は、アルゴンキン州立公園の大自然や歴史を体験できる、インテリア(内陸地)カヌーをご紹介します。

佐久間克宏(サクマカツヒロ)

98年秋、カヌーやアウトドア用品の輸入商社を辞め家族と共にオンタリオ州へ移住。翌年よりアルゴンキン州立公園でカヌーやハイキングのガイドを始める。97年よりアルゴンキン州立公園のパークナチュラリストに採用され、ガイドウォークやビジターセンターで公園の歴史や自然を、日本のビジターに解説している。
幼少から日本で培った知識と経験を基にした、分かり易い自然解説には定評がある。オンタリオ州の他、BC州やユーコン準州でも自然をテーマにしたネイチャーツアーのガイドも行い、カナダの自然を日本に紹介している。

先住民とカナダの歴史を感じるインテリアカヌー

アルゴンキン州立公園は、東京都の3.5倍の広さを誇る自然地帯。1万年前の氷河期に地表が削り取られ「カナディアンシールド」と呼ばれる岩盤が露出し、6つの川の源泉と、そこから流れ出す水が大小2000以上の湖へと流れています。それはまさに森と湖の大地といえます。
ここに限らず、オンタリオ州全土には湖が点在しており、その数は25万にも上ります。この地がLand of Lakes「湖の大地」と呼ばれる所以です。カナダが世界の真水の約10%を供給し、世界の湿地の約14%を占めている事もこの地を訪れると頷けるでしょう。
この「湖の大地」で、先住民たちが狩猟や移動に使っていたのがカヌーでした。そして1600年代、ヨーロッパからやってきた「パイオニア」と呼ばれる開拓者達も、その機動力に目をつけました。軽量で奥地まで入って行けるカヌーは、探検や測量に最適でした。パイオニアたちは、より積載量の高い大型のカヌーを作って毛皮の交易を発展させ、やがてはカナダの国力の基礎といえるものを作り上げました。今ではカナダを代表する百貨店となった「ハドソンズベイ・カンパニー」も、元々カヌーを使った毛皮商人だったのです。まさに「カヌーの歴史はカナダの歴史」といったところでしょうか。公園でカヌーツアーをしていると、当時の先住民やパイオニア達の生活に思いを馳せる事ができ、これもインテリアカヌーの大きな魅力の一つです。

公園内には、名前のついた湖が1099、名前の無い湖沼が1357ヶ所あり、合計2456もの湖が存在しています。1万年前の氷河期が形成した広大なスケールの大地です。

公園とその周辺は、約8000年間アルゴンキン語族と呼ばれる先住民の狩猟の場でした。1600年代初頭、ヨーロッパからやって来たパイオニア達は、先住民が使っていたカヌーを大型にし、毛皮の運搬用に発展させたのです。この絵画は1869年、ハドソンズベイ・カンパニーに同行したアン・ホプキンスが描いた有名な作品です。
(Canoe Manned by Voyageurs Passing Waterfall by Anne Hopkins)

生態系のバランスを保つローインパクトキャンプ

公園内には、カヌールートが網の目のように張り巡らされ、その総距離は2100kmもの長さに及びます。 ルート上には約2000ヶ所のキャンプサイトがあり、その多くは湖畔や岬の絶景地に設置されています。各キャンプサイトにあるのは、テントを張る平らな場所と焚き火をするファイアーピット、そして簡易トイレだけです。自然景観を保ち、自然に対するインパクトを最小限に抑えるため、最低限の施設にしています。このため、使用頻度が多くなったキャンプサイトは、閉鎖される場合もあります。
(公園で発行しているカヌールートマップは、常に最新版の利用を!)
カヌーに出発する前は管理事務所に立ち寄り、「パーミット」と呼ぶ許可証を購入しなければなりません。その際、人数、ルート、宿泊する湖名などを報告します。入園グループ数が、キャンプサイトの数を上回らない様コントロールしているのです。パーミット購入の際には、インテリアキャンプの各規則が告げられ、パーミット番号の書かれた専用のゴミ袋が渡されます。「ローインパクトキャンプ(環境に影響の少ないキャンプ)」の観点から、規則にはガラス瓶・缶入り食品の持ち込み禁止、ゴミの持ち帰りなど全部で11条項あり、反則者には罰金が科せられます。
「コースや規則が決められた中でのカヌーツアーなんて、堅苦しくてつまらない」と思う方もいるかも知れません。しかし、実際ツアーをしてみると分かりますが、コース表示はほとんど無いので、地形を読み取る読図がきちんと出来ないとすぐに迷ってしまうでしょう。各キャンプサイトも「ローインパクトキャンプ」が徹底され、ゴミなどもほとんど残されず自然な状態が保たれています。ですから、手付かずの自然を漕ぎ進む緊迫感も十分楽しめるはずです。

公園が発行するカヌールートマップ。ピンクの太い線が水上のルート、赤い線は「ポーテージ」ルートです。湖岸にある赤い三角印がキャンプサイトです。マップには、インテリアキャンプの規則や、公園の歴史などの情報も掲載され、カヌーツアー必携のアイテムです。

典型的なインテリアのキャンプサイト。キャンプ中は水遊びや釣り、動物観察なども楽しめる最高のロケーションです。ただ、食料は野生動物を寄せ付けないよう、木に吊るして保管するので、丈夫な木が無いサイトはいくら景色が良くても、避けたほうが無難です。

カヌーを担いで歩くポーテージも、ルートの一部

カヌールートは大小の湖を通り抜けたり、スイレンの咲き誇る大湿原やスゲ類の茂る曲がりくねった小川を行ったりと、実に変化に富んでいます。コースのほとんどは水上ですが、落差の大きい湖と湖の間や、カヌーが進めない浅瀬の川は、カヌーや荷物を担いで迂回する「ポーテージ」が必要です。「ポーテージ」の長さは数十mから数キロと様々ですが、重さ数十キロもあるカヌーや荷物を担いで歩くのは重労働です。ですから、事前のルートの選定や食料の計画、入念なパッキングが重要となります。

スイレンやコウホネが咲く大湿原。湿原は水源となると同時に、水質の浄化作用があり、多様な生物の生息地として、地球に無くてはならない生態系です。カヌーで進むと、日本では少なくなった食虫植物や蘭などの植物や、様々な水鳥達を観察でき湿原の重要性を実感します。

黄色い標識がポーテージのスタートとゴール地点の印です。カヌーやキャンプ道具と食料の入ったカヌーパックを担いで歩きます。ムダの無い食料計画と、入念なパッキングが負担を軽くするコツです。軽量化とゴミを出さない為、食糧は全てパッケージを外し二重のビニール袋に入れ替えます。

人間と自然をコネクトしてくれるインテリアカヌー

小川ではビーバーが作ったダムもよく現れます。齧り倒した木を積み重ね、泥で固めた堰は、1mの高さになる事も珍しくありません。ビーバーダムを越えるのは、最初のうちは珍しくて楽しいのですが、あまり多くなると、その都度降りてをカヌーを引っ張り挙げないといけないので大変な作業です。
この様にインテリアのカヌールートは、様々な生態系を通り抜けるので、多くの種類の動植物を観察する機会にも恵まれます。カヌーの前にムースが忽然と現れたり、石の上で甲羅干しをしている大きなカメの横を通り抜けたり、ビーバーの泳ぐ姿を見かけたりと、ありのままの自然と出会えるのです。キャンプサイトでも「ルーン」と呼ぶアビ科の水鳥が奏でる神秘的な鳴き声が響き渡り、僕ら人間が真似する遠吠えに、野生のオオカミから応えが返って来る事もあります。こんな風に自分と自然をコネクトさせてくれるのが、アルゴンキン州立公園でのインテリアカヌー最大の魅力と言えるでしょう。

ビーバーが作ったダム。ダムを作る理由は、川を湖にして自分の巣を外敵から守る事と、食料のスイレンなど水生植物が良く育つ環境にする二つの理由からです。巨体のムースも、夏はこの水生植物を食べて過ごします。多様な動植物が育つ環境になる事から、ビーバーは生態系のバランスを守る重要な動物です。

湿原を漕いでいると、公園最大の動物であるムース(ヘラジカ)に出会う事も良くあります。カヌーで近づく僕らを気にする事も無く、好物のスイレンの葉や根を一生懸命食べている姿に圧巻されます。「森の王者」とも呼ばれるムースも、ビーバーがいないと絶滅してしまう事を思うと、地球上の生態系が如何に微妙で複雑なバランスの上で成り立っているかを知らされます。

変温動物であるカメは、日射を受け体温を上げてからでないと活動できないため、甲羅干しをする姿を良く見かけます。写真のスナッピングタートルは、和名「カミツキガメ」と呼ばれ獰猛なイメージがありますが、 危害さえ加えなければとてもおとなしいカメなのです。後ろからそっと近づいたのですが、目が合うとあわてて逃げて行きました。

ルーンは水中に潜り魚を捕食する水鳥です。水質が綺麗で魚の多い湖にしか生息しない事から、環境のバロメータにもなっています。オオカミの遠吠えにも似た鳴き声や笑い声のような鳴き声が、夜中静まり返った湖面に響き渡り、神秘的な感じを覚えます。オンタリオの州鳥でもあります。

佐久間さんがガイドするカヌーツアーに参加できます!

アルゴンキン公園・ボエジャーカヌーツアー7日間(キャンプ4泊・ホテル2泊)
2010年7月11日(日)〜17日(土) 
詳細は以下HPをご覧下さい。
http://www.ontariooutdooradventures.com/v1.htm
お問い合わせは、Eメールでどうぞ。
kcjsakuma@sympatico.ca

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