Ontario Style Special Contents Vol.25 全編トロントで撮影!映画「トイレット」公開記念 荻上直子監督インタビュー

人が優しいし、映画作りにも協力的。トロントはとても撮影しやすい街でした

「かもめ食堂」「めがね」に続き、荻上直子監督が手掛けた新しい作品「トイレット」が、8月28日より全国で公開されました。
外国人が日本のハイテク・トイレに驚いているのを見て着想を得たというユニークなこの作品は、全編カナダのトロントで撮影されたことでも話題となっています。監督自身、準備から編集まで、半年近くトロントで過ごしたと言います。
映画「トイレット」への思いと共に、現地での撮影秘話や滞在中の思い出など、お話を聞いてみました。

荻上直子 Naoko Ogigami

荻上直子 Naoko Ogigami

1972年千葉県出身。千葉大学工業学部卒業。1994年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で学ぶ。2000年帰国。デビュー作「バーバー吉野」(2003)でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。フィンランドで撮影された「かもめ食堂」(2006)の大ヒットの後、「めがね」(2007)は2008年サンダンス映画祭、香港映画祭、サンフランシスコ映画祭などに出品され、ベルリン国際映画祭ではマンフレート・ザルツゲーバー賞を受賞。

トイレット

荻上監督3年ぶりの新作「トイレット」

亡くなった母が死ぬ直前に日本から呼び寄せた「ばーちゃん」と、引きこもりのピアニストの長男モーリー、ロボットおたくの次男レイ、そしてエア・ギターにはまる大学生の末っ子リサ。バラバラで生きてきた家族が突然はじめた奇妙な生活。問題アリな彼らが、次々に起こる小さな出来事によって絆を深め、言葉を超えてつながっていく。そんなある家族の物語。

  • 脚本・監督:荻上直子
  • 出演:アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー、デイヴィッド・レンドル、サチ・パーカー、もたいまさこ
  • 協力:カナダ観光局エア・カナダ
  • 配給:ショウゲート / スールキートス
  • 公式ウェブサイトはこちら http://www.toilet-movie.com

私のイメージした北米東部の都市に、トロントはぴったりでした

――トロントでは撮影を含めどのようなスケジュールで過ごされたのですか。

荻上 2009年7月に準備のためトロントに入り、9月半ばから1カ月間撮影。撮影後、日本人スタッフは私だけ残って編集や音づけの作業。というわけで、去年の12月末まで現地にいました。途中で帰ると、もう何もしたくなくなっちゃいそうだったので、そのままトロントに居続けました。

――映画の舞台はアメリカの一都市ですが、そのロケ現場としてトロントを選ばれた理由は?

荻上 ずっと北米の東海岸のどこかで撮りたいと思っていたので。つまり古い街並みや建物があって、街路樹があって、西部のようなカラッとした感じでなくちょっと湿気があって。そういう自分のイメージにトロントはぴったりだったのです。なによりトロントは、ハリウッド映画をはじめ様々な映像のロケーションに使われており、街もとても協力的。それもトロントを選んだ大きな理由のひとつ。実際、スタッフも慣れていてとても撮影しやすかったですね。

――トロントを訪れたのは初めてだったそうですが、第一印象はいかがでしたか。

荻上 以前にモントリオールとナイアガラは行ったことがありましたが、トロントは全く初めての街でした。第一印象は「安全だなあ」ということ。ニューヨークともすごく近いのに、もっとずっと穏やかだし、人も優しいし。たとえばタクシーひとつとっても、運転手さんがこちらの言うことをちゃんと辛抱強く聞いてくれる。移民の国だからでしょうか、みんなお互いの存在を尊重しているという印象を受けました。

撮影場所となったトロントの住宅街

次男レイ役のアレックス・ハウスさんと共に。彼自身、トロントの出身

よく行ったのはビデオ屋さんとチャイナタウンの軽食屋さん

――滞在中は街を楽しむ余裕はありましたか。

荻上 夏の間はハーバーフロントなどをジョギングしたりする余裕もありましたけど、撮影が始まったら朝から晩まで現場にこもりきりで、楽しむという感じではなかったですね。ただ土日は休みになるので、みんなと出かけたりすることもありました。チャイナタウンで足裏マッサージを受けたり、ケンジントン・マーケットをぶらついたり。

――馴染みの場所などもできましたか?

荻上 いちばんよく行った思い出があるのはビデオ屋さん。しょっちゅう行って、日本に来なかったカナダやアメリカの作品をたくさん借りてました。そのうちお店のお兄さんと仲良くなって、「キミ、なかなかいい趣味しているよ」なんて褒められて「これもいいからぜひ観てみて」なんて作品を勧められたりして。

――トロントにはエスニックタウンも多いし、世界各国のレストランが揃っていますが、そうしたお店での食事も楽しまれましたか。

荻上 いろんな国の食事を食べに行きましたね。チャイナタウンのはずれにある「マザーズ・ダンプリングス」という店は結構お気に入りでした。小籠包なんかがおいしくて、テイクアウトもできるので家に買って帰ったりして。それから、お酒はよく飲みに行っていましたね。特定の店ではなくフラフラ歩いて気に入った店に入るという感じで。一人でもよく飲みに行っていました。そういえば、編集作業もすべて終わって、明日はついに日本に帰るという前日、好きなだけ食べて飲んでやろうと思ってダウンタウンにあるオイスターバーに行ったんです。オイスターを注文しまくって、白ワインを飲みまくって。安いしおいしいし、一人で堪能してすっかり酔っ払ってしまいました。

――食事といえば、監督の作品ではご飯を食べる情景が丁寧に描かれていますよね。今回の「トイレット」でも餃子を作って食べるシーンが印象的でした。そこに込められた意味があるのでしょうか。

荻上 わざわざ強調しているつもりはないんですが・・・。毎回フードスタイリストの飯島奈美さんがいろいろ心を込めて作ってくださる。そのおかげですね。今回は、餃子をみんなで作って一緒に食べる、というのが家族として近づいていく感じとして自然かなと。子供のころ、テーブルを囲んでみんなで餃子を作った思い出があって、そのイメージを出したかったのかも。

餃子を作って食べるシーンは印象的

劇中には握りずしも登場

カナディアンはポジティブで、非常事態にとても強い

――主演のひとりであるもたいまさこさんの他は、出演者はほぼ全員カナディアン。それにスタッフもほとんどカナディアンだったと聞きましたが、彼らの印象は?

荻上 みんなすごく優しかったです。それに本当によく働いてくれました。礼儀正しいし。最初の挨拶のとき「なにぶん日本人ですから、英語に関してはうまく伝わらないこともあると思いますが、どうか我慢してください」とお願いしたんです。そうしたら「わかった」と。で、みんなずっと丁寧にこちらの言うことを聞いてくれて、ゆっくりとしゃべってくれるんです。

――映画作りをする中で、日本人とカナダ人の違いを感じたことは?

荻上 日本人は何か起こった時に備えて前もって準備を万端にしておきますが、カナディアンの場合、いつもはのんびり構えていながら何か起こったら全力でそれに対処するという感じ。仕事の仕方が違いながら、結果は同じなんですけどね。カナディアンは非常事態に強いというか、ポジティブというか。たとえば、撮影におもちゃのロボットをたくさん使ったのですが、外注していたものが直前になって間に合いそうもなくなったんです。そうしたら美術さんたちがフル稼働しはじめて、3日くらい徹夜して作りあげ、なんとか間に合わせてくれたんです。

――撮影中のトラブルとか、ハプニングとかは?

荻上 とくになかったような気がします。トラブルは忘れちゃうタチなんです。撮影中に猫が動かなくて困ったくらいかな。そういえば、他愛もないけれど面白い思い出はありますね。スタッフや出演者がみんな毛深かったこととか(笑)。クマみたいに毛深い人もいたし、顔は可愛いのに胸毛がボウボウだったり。出演者も洋服から胸毛が見えていてちょっとイメージが違うんですよ。冗談半分で「それ、剃ってくれない?」ってお願いしたんですけど、「許してくれ」って言われちゃいました。

末っ子リサを演じたタチアナ・マズラニーさんはサスカチュワン州出身のカナディアン

「ばーちゃん」のもたいまさこさんと、長男モーリー役のデイヴィッド・レンドルさん。デイヴィッドさんもトロント出身

外国を舞台に、観る人の期待を裏切るような作品を作りたかった

――今回の作品で描きたかったことは?

荻上 今回の「トイレット」で私としては5作目となるのですが、4作目まで撮ってようやく自分のカラーみたいなのがわかったような気がするんですね。それで今度は外国で、しかも英語のセリフで撮ってやろうと思ったのです。それでも自分のカラーが通せるかが、チャレンジでした。結果、自分ではできたと思うし、その充実感はあります。もっとも最初からストーリーがちゃんとあったわけでなく、まずお母さんのミシンでスカートを作るというアイデアが浮かんで、さらに以前、一緒に仕事したフィンランド人のスタッフに「日本のハイテク・トイレに感動した」と言われて、これがヒントになり、という感じで、部分部分ができてつながっていった感じ。いつもそんな風な作り方なんですが。

――作品のキャッチフレーズが「みんな、ホントウの自分でおやんなさい」とあるように、ムリをせずにありのままでいなさい、というのが今回の作品、そしてこれまでの作品にも共通したテーマのようにも思えます。

荻上 私自身、ムリをしても頑張るという部分はありますが・・・。たとえば、お金のためだけに無理して仕事をしないといったような自意識を持ちたいとか、あるいは「自分はこれでいいんだ」と思えるような人へのあこがれとかはありますね。ただ、自分自身は欲しいものもいっぱいあるし、エゴイストだし、もっとチャレンジしたい気持ちも大きい。上昇志向もあるし誘惑もたくさんあるから、その分、自分がしっかりしていないと流されてしまうという危惧もあります。そうしたことが作品のテーマと言えるのかは、自分自身でもあまり意識していないのですが。

――観る人に伝えたかったことは?

荻上 全体のトーンは、今までの作品と一緒かもしれませんが、「かもめ食堂」や「めがね」より、私自身としては更に踏み込んだつもりです。よく私の作品は「癒し系」と言われることが多いんですが、私にはそんな気は全くないんです。なので、今回はむしろ「癒してなんかやるものか」と思いながら撮ったつもり。観る側の期待をちょっと裏切りたかったというか。完成した今となっては、正直にいとおしい、という感じです。自分の子供みたいなもの。作ってよかったと思っています。ただ私は、終わったものは振り返らない主義。今はもう次のことを考えています。

セリフはすべて英語。はたして「ばーちゃん」が語るのは・・・

トロントで撮影中の荻上監督

あとは温泉さえあれば、トロントに住めそう!

――では最後に、もう一度トロントの話を。ほぼ半年、現地で過ごされ、ひとつの作品を作り上げられたわけですが、監督にとってトロントはどんな印象で心に残っていますか。

荻上 都会なのに田舎。なんでもあるけど穏やか。東京とは全く違う街。私にとっては、たとえば仙台みたいに居心地のいい街。あとは温泉でもあれば、トロントに住んでもいいな(笑)。

ダウンタウンのすぐそばにも豊かな緑が

――トロントが気に入られたようですね。また近いうちトロントでぜひ撮影を。そして、その時はトロントそのものを舞台に撮っていただけたら嬉しいです。
今日はどうもありがとうございました。

取材協力、写真提供:スールキートス