オンタリオに通い続けるライター、ヨシザワです。長い間ずっと、行ってみたいと思っていた場所がありました。ヒューロン湖の北岸に、横長に広がるマニトゥーリン・アインランド。古くから先住民の聖地として知られる神秘的な島で、2013年の夏、念願かなってついにここに上陸しました!
ティーピーに泊まって、ドラムを作り、伝説の山へとハイキング……。陽気なオジブウェのガイドとともに、彼らのディープなカルチャーにしっかりと浸ってまいりました!

世界一の「魂の島」へ

ヒューロン湖に浮かぶマニトゥーリン・アイランドは、面積2,766km2と、佐賀県や神奈川県などと同じくらいの大きさを持ちます。“湖の中にある島としては世界最大”で、その中には108もの湖があり、そのひとつマニトゥー湖は、“湖の中にある島の、その中にある湖では世界最大”……。とにかく複雑な地形により、他にもいろいろ世界一がある島なのです。
そしてまた、ここは、古くから先住民オジブウェ族が暮らしてきた聖地としても知られる島。現在も約1万4千人の島民の50%はオジブウェ族などの先住民で、カナダでも珍しい先住民ワールドです。島名のマニトゥーリンも、オジブウェ語で「魂の島」の意味で、何ともミステリアスではありませんか! この自然あふれる神秘的な島で、数千年間自然とともに共存してきた人々の、貴重な文化や伝統に触れてみようと思います。

オジブウェ族のガイドとともに

数日の滞在中、お世話になったのは、チギン(M’Chigeeng)という集落にある「グレート・スピリット・サークル・トレイル」(GSCT)。この地域の8か所の先住民コミュニティで組織されたツアー会社で、先住民の若者たちがガイドとなり、マニトゥーリンを訪れる人々に様々な先住民文化体験を提供しています。
リーダー的存在となっているのが、黒髪の美女カーラ(写真左)、クマのようにたくましいファルコン(中央)、そしてひょうきん者のスティーブ(右)。全員オジブウェ族で、「自分たちの文化を旅行者に知ってもらうため、そして同時に、私たち自身がそれをちゃんと維持して次の世代に伝えていくためにも、こうした活動が必要なんです」という、熱い思いを共有する人たちです。

すべては煙から始まる

GSCTでは、かつての先住民の集落を再現したような施設「ウッドランズ」を拠点に、様々なアクティビティを体験しました。ここでは何かを始めるとき、必ず全員で行うことがあります。杉、セージ、スイートグラス、タバコを合わせて焚き、その煙で耳、目、鼻、口、そして全身を浄める儀式「スマッジ」。一人ひとり順番に丁寧に行い、最後に「ミグワッチ」(ありがとう)と感謝をささげます。
物事の前に身を浄めて気分を新たにし、自然に感謝して安全を祈る、彼らの先祖の時代からずっと行われてきた習慣といいます。日本でもお寺などで似たようなお浄めを行いますが、自然や、目に見えないものを畏れ敬う心には、どこか共通するものがあるのかもしれません。

鹿皮のドラム作りに挑戦

マニトゥーリンでは文化系、アウトドア系ともに様々なアクティビティを体験しました。
中でも最も印象的だったものひとつが、オジブウェ伝統のドラム作りです。この地の人々にとってドラムはスピリチュアル・コミュニケーションの道具であり、「ライフ・ボンド」(命とつながるもの)として誰もがひとつは持っているのだそうです。
もちろんすべて手作りです。まず鹿の皮を水に浸けて柔らかくし、これを丸い木枠に張り付け、皮紐や動物の筋を使って皮を引っ張りながら編んできます。皮が乾くとハリがでて、よく響く音が出るドラムになるのです。食料を求めて狩りをしたら、その動物から得られる物は余すことなく使う、そんな彼らのライフスタイルが作り上げた楽器といえます。
ファルコンの指導のもと、1時間くらい悪戦苦闘して作ったそれは、我ながらなかなかの出来映え。最高のお土産になりました。
ちなみにクラフト系のアクティビティはほかにも、小さなものから大きなものまでいろいろあります。たとえばモカシンやドリームキャッチャーなど、持ち帰りやすいものも人気のようです。

ドラム作りの後は、ファルコンとスティーブによる、ドラム演奏とオジブウェ語の歌も披露されました。たとえば「さあ、手をつないで」という歌。これは他所から訪れた人を歓迎する時の歌。他にも収穫に感謝する歌、先祖をたたえる歌など、男性ソング、女性ソング、それぞれたくさんあるそうです。どの歌も比較的フラットなメロディーで、高い声で叫ぶように歌います。言葉はわかりませんが、ふたりの迫力ある歌声が森の中に朗々と響き渡ると、周辺のすべてが私たちと一緒にそれを聞いているような気分に。まるで自然と一体となるような不思議な感覚でした。
ほかにも、ドラムを使って伝統的なリズムのレッスンを受けたり、ちょっとしたリズムゲームに興じたり、とドラム教室は続きます。楽器ひとつでこんなに楽しめるなんて、驚きです。

ティーピーに滞在

滞在中は、GSCTが運営するホテルに泊まったのですが、1泊だけは、「ウッドランズ」にあるティーピーを利用することもできました。ティーピーは北米先住民が使っていたテント式の住居で、ここには3棟が建っています。外観はいかにも伝統的なものですが、中を見てビックリ。なんとフローリングの床にベッド、そしてソファまであるのです。これは今人気のグランピング(ゴージャスなキャンプ)をティーピーで提供するもの。夜はキャンドルの灯りで、雰囲気抜群です。
この夜、あいにく大雨になり、キャンバス地のティーピー内では少々雨漏りもありました。昔の人たちは嵐のときなどさぞ大変だっただろうな、と思わず実感。深夜に心配したスタッフが様子を見に来て、親切にもホテルに移ることを提案してくれましたが、せっかくの体験と思い、そのままありがたく、ティーピー滞在を続けさせてもらうことにしました。

精霊ナナブッシュ伝説が残る山へハイキング

ある晴れた日の朝、伝説の山へのハイキングも楽しみました。ガイドはまだ10代のジェシー。一見ファンキーな若者ですが、彼もやはり伝統的な「スマッジ」から1日をスタートします。
ジェシーの案内で、島のほぼ中央にあるカップ&ソーサーという山に登りました。テーブル状の地形をしており、高台のエッジ部分には高さ70mの絶壁が続きます。全長12kmのハイキング・トレイルが伸びていますが、今回は比較的簡単に3時間ほどで歩けるイージー・コースへ。無理がなく、しかもエッジ部分まで行くと島の西側が一望できます。
目の前に広がる大きな湖はミンデモヤ湖、“おばあさん”という意味の湖だそうです。ジェシーがその絶景を眺めながら、湖にまつわる伝説を語ってくれました。
「昔々、やんちゃな精霊ナナブッシュは、いたずらが過ぎたため人間から追いかけられ、おばあさんを担いで逃げる羽目になった。ところが北へ向かう途中でつまずいてしまい、おばあさんは滑り落ち、そのまま湖の岩になってしまった。ナナブッシュは湖が見えるこのカップ&ソーサーに登っておばあさんの姿を探したとさ……」
実際はもっととても長い話だったのですが割愛します。島にはこうした不思議な先住民伝説があちこちに残っているのです。

感動のサンセット・カヌー

マニトゥーリンでの最後の夜、ファルコンとスティーブが、サンセット・カヌーに連れて行ってくれました。場所はミンデモヤ湖。先日ハイキングで眺めた「おばあさんの湖」です。夕方、湖畔で「スマッジ」をして、漕ぎ出しました。別の日の昼間、ヒューロン湖でのカヌーも楽しみましたが、これはまた全く違う趣があります。夕陽に向かって漕ぎ出すカヌーのシルエットの美しいことといったらありません。どんどん日が傾く中を、小1時間漕ぎ続け、小さな島へ。
ここで、ファルコンとスティーブがドラムを取り出してリズムを刻み、例の歌声でオジブウェ・ソングを歌い始めました。大地の鼓動のようなドラムの音、そしてこの地で数千年の歴史を刻んできた人のスピリットが込められた歌声、それが夕闇の湖に響き渡ります。他では味わうことができない、鳥肌が立つような感動体験でした。

唯一の心残りは「ドリーマーズ・ロック」

マニトゥーリンには、「ドリーマーズ・ロック」というパワースポットがあります。昔からオジブウェの成人の儀式「ビジョン・クエスト」に使われていた巨大な岩。ここに数日間の断食をして籠り、将来の指針を得て戻ってくるのだとか。
ぜひここにも登ってみたかったのですが、ちょうど私たちの滞在中は誰かが籠っているとのことで、立ち入ることができませんでした。それにしても、今でもこうして昔ながらの習慣が普通に行われているのは驚きです。まさにこの島ならではでしょう。

大きなカナダでもなかなか体験することのできない先住民の文化と伝統が、マニトゥーリンには色濃く残されていました。自然の中で、GSCTのメンバーと過ごした数日間は特別な時間として心に残っています。またぜひ訪れなくては。そして次は絶対、ドリーマーズ・ロックにも登らなくては!