オンタリオに通い続けるライター、ヨシザワです。甘いものはニガテな私ですが、メープルシロップだけは別。琥珀色に輝くトロリとしたシロップを口に含むと、つい笑みがこぼれてしまいます。この春、オタワ郊外にあるメープル農家「フルトンズ・パンケーキハウス&シュガーブッシュ」を訪れました。5世代に渡ってメープルの森を守り、シロップ作りの伝統を紡ぐ、素敵なファミリーをご紹介します。

まだ雪残るメープルの森へ

オタワの南西、メープルシロップの名産地ラナーク・カウンティにあるフルトンズを訪れたのはまだ雪深い2月。私はここに、20年以上前から何度か訪れており、今回は10年ぶりの再訪でした。400エーカー(東京ドーム35個分!)の広大なメープルの森の中、開拓時代の木こり小屋を思わせる建物の前で、満面の笑顔で迎えてくれたのはオーナーのシャーリーさん。10年前、というか20年前と変わらない若々しさにびっくりです。思わず「全然変わってない!」と歓声をあげてハグ。すると「ふふ…、毎日メープルシロップを食べているからね。アンチエイジング効果があるのかも」とニコリ。シャーリーさん、さすがです!

メープルの森の中にあるパンケーキハウス

元気いっぱいのシャーリーさん

自家製メープルシロップを味わえるパンケーキハウス

建物の中に入ると、そこはカジュアルな雰囲気のダイニングルーム。自家製のメープルシロップをその場で楽しめる「パンケーキハウス」です。オンタリオ州ではこうした簡易レストランを併設しているメープル農家が少なくありません。フルトンズでは、樹液の収穫期を中心に2月から4月の間営業しており、近隣の人々をはじめ旅行者にも人気があります。甘い香りがふんわりと漂う中、何組かのファミリーが、おいしそうにパンケーキランチを楽しんでいました。

日本をはじめ世界中から旅行者が訪れています

次々とパンケーキが焼かれるオープンキッチン

樹液の収穫を祝って楽しむパンケーキ

「メープルシロップは、メープルの樹液がとれる春の数週間に集中して作られます。この時期、地元の人がメープル農家に集まってできたてのシロップでパンケーキを楽しみ、収穫を祝うのがオンタリオの伝統です。パンケーキハウスはその雰囲気をより多くの人に体験してもらえる場所です」とシャーリーさん。
さっそくオープンキッチンで作られるメープルランチをいただきました。フワフワのパンケーキとメープルシロップで煮込んだベイクドビーンズ、ソーセージ。もちろんメープルシロップをたっぷりかけていただきます。素朴でやさしい甘さに、思わず幸せな気分になってしまいました。

素朴なメープルの味わいを堪能

パンケーキハウスの片隅では伝統音楽の演奏も

春の訪れを告げる、楽しいイベント

パンケーキハウスを訪れる目的は、おいしいメープル料理をいただくだけではありません。雪の上でソリ遊びをしたり、広大なメープルの森を馬ソリで巡ったり、「ヘリテージ・メープル・パス」というトレイルのハイキングをしたり…。煮詰めたメープルシロップを雪の上にたらし、固めて食べる「メープルタフィー」もハイライトのひとつです。またメープルシロップの製法を見学したり、昔ながらのウッドクラフトなどを体験できる小屋もあり、こちらも大人気。こんな風に素朴な遊びを楽しみ、春の訪れを感じる、まさにこの地の伝統行事といった趣が漂います。

馬ソリで散策。昔はシロップ集めに馬が使われていました

広大なメープルの森にはハイキングトレイルも

焚火で作る焼きマシュマロは子供たちの大好物

雪の上で固めるメープルタフィーは一番のお楽しみ

時代と共に進化しても、メープルシロップは昔と同じ

フルトン家は、このラナーク・カウンティで170年以上、5世代に渡ってメープルシロップを作り続けてきました。なんとカナダの建国よりも古い歴史があるのです。「1840年代に、スコットランドから私たちの先祖がこの地に移民してきたのが始まりです。彼らは先住民からメープルシロップの作り方を教わったのだと思います。メープルの森が引き継がれて私で4代目。採取するのにチューブを使ったり、シロップを使ったボディケア製品を作ったりなど、少しは現代的に進化していますが、メープルシロップの基本的な作り方は当時のまま。できあがるのは100%天然のものです」とシャーリーさん。

昔と変わらぬおいしさの天然メープルシロップ

最近ではボディケア製品「メープルリシャス」も開発

家族みんなが愛するメープルシロップづくり

久しぶりに訪れたフルトンズ。家族みんなで農場を手伝っているのは変わりないようです。今や、シャーリーさんと共に5代目となる長男のスコットさん夫妻も一緒に働いています。また近くに住む長女のロレーンさんも、娘さんと共に、毎週末のように顔を出しているそう。そして6世代目にあたるスコットさんの3人の息子さんたちも、この森が大好きな様子で、今年は自分たちで自由研究的に「子供会社」を立ち上げて、初めてのメープルシロップづくりに挑戦するのだとか。頼もしいかぎりです。

6代目となるスコットさんの3人の子供たちは自分たちのメープルシロップ作りを計画中。
ブランド名は「トリプル・トラブル」

近くに住む長女のロレーンさん母娘の10年前と今の写真。二人とも変わらず農場を手伝うのが大好き

「森は私たちの大切な財産です。木の成長を損ねない様、樹液は毎年、少しずつ丁寧に採取します。先祖から受け継いだ森を健康に保って、また次の世代に渡すのが私の役目」とシャーリーさん。家族全員がその想いを共有しているようです。
来年、建国150周年を迎えるカナダですが、メープルシロップづくりはこの若い国の歴史の中で大切に紡がれてきた伝統のひとつと言えるのではないでしょうか。琥珀色の甘いシロップがとても貴重なものに感じられました。

フルトンズ・パンケーキハウス&シュガーブッシュ

オタワから車で1時間弱の距離。パンケーキハウスは2月から4月にかけて営業。その他のシーズンのイベントはウエブサイトでチェックを。グループでの予約は四季を通じて受付。パンケーキハウスの他、ギフトショップも併設しており自家製シロップなどの購入が可能です。

春の樹液で作るメープルシロップ

メープルシロップの原料となる樹液の収穫は3月から4月の数週間のみに行われます。春の雪解けと共に木の中を駆け巡る栄養分満点の樹液を採取して、これを40分の1まで煮詰めてできるのがメープルシロップです。1本の木からは樹液全体の10分の1だけが採取され、これから作られるのはほんの1ℓ程度のメープルシロップ。大変貴重な天然甘味料です。